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高橋 英雄さん・ナミさん
大分県玖珠郡玖珠町

■経営の概要


高橋牧場のある玖珠町は、大分県の西部で大分市より約65kmの距離に位置している。

玖珠町の総面積は286.6kuにおよび耕地は標高310m〜650mに分布する中山間地帯で、気候は年平均気温13.3℃、年間降水量1863mmで夏季は冷涼で過ごしやすく、冬季は県でもとくに冬の寒さが厳しい地域である。

玖珠町の産業の主体には農業・林業などの第1次産業で農業は水稲・畜産が古くから盛んに行われ現在も農業粗生産額(40.6億 14年度)の61.6%を占める主要な作目となっており、特に畜産は(粗生産額11.8億)29.1%を占め米についで2番目の主要作目である。

近年では、野菜・花キを中心とする施設園芸が発展し、トマトやバラの一部では雇用による企業的な経営が行われている。

当牧場のある玖珠町大原野地区は、標高650mにあり、とくに冬季には-10℃を下回ることがあり積雪も一週間以上続くこともある地域である。


■労働力構成



区分 続柄 年齢 農業従事日数 年間総労働時間 備考
 農業従事日数 うち畜産部門
家族
(法人)
本人 60 310日 280日 945時間 飼料給与・生産・野菜
55 310日 180日 843時間 子牛等飼料給与・野菜・経理
長男 32 310日 280日 2,340時間 給与・生産・授精・出荷
臨時雇 のべ人日 2人     


■土地所有と利用状況



区分 面積 畜産利用地面積 備考
実面積 うち借地
個別利用地 耕地 40a 0a -  
360a 160a 280a  
樹園地 - - -  
400a 160a 280a  
耕地以外 牧草地 300a 0a -  
野草地 - - -  
放牧地 - - -  
300a 0a 150a  
畜舎・運動場 75a 0a 75a  
その他 山林 350a 0a -  
原野 - - -  
350a 0a -  
共同利用地 400a 400a 400a 利用戸数:3戸

■施設等の所有利用状況


種類 構造
資材
形式能力
棟数
面積数量
台数
取得  所有区分 備考
金額(円)
畜舎 畜舎1
畜舎2
畜舎3
畜舎4

鉄骨造
鉄骨造
鉄骨造
鉄骨造

240u
350u
300u
300u

1973
1922
1995
2001

900,000
2,149,600
3,058,700
2,230,330

個人
個人
個人
個人

施設 サイロ1
サイロ2
真空サイロ
サイロ3
ビニールハウス1
ハウス
倉庫
ビニールハウス2
堆肥舎1
堆肥舎2

コンクリート
コンクリート




鉄骨造

鉄骨造
鉄骨造

100u
70u
1台
1基
1基
1基
20u
1基
150u
240u

1987
1981
1984
1985
1987
1988
1988
1991
1992
2001
900,000
630,000
500,000
1,500,000
120,000
383,860
500,000
196,215
2,298,000
271,807

個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人

機械

ヘイベーラー
マニュアスプレッター
ジャイロメーカー
マウントカッター
トラクター32
トラクター
ハーベスター
ブームスプレーヤー
トラクタージョンディア
ロールベーラ1式
軽トラック2
トラクター80
ホイルローダー
ダンプ3t
ロータリー
マニュアスプレッター
ダンドクルーザー
ロールベーラ中古
ユンボ

1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台

1985
1985
1985
1985
1985
1989
1991
1993
1994
1996
1996
1997
1999
1998
2001
2001
2001
2001
2001

300,000
102,830
100,000
73,500
3,210,000
1,287,000
208,500
500,000
925,213
1,169,350
840,000
2,698,600
2,900,000
2,660,000
437,850
918,500
850,000
175,000
650,000
共同
共同
共同
個人
個人
個人
共同
個人
共同
共同
個人
個人
個人
個人
共同
共同
個人
共同
個人


経営管理技術や特色ある取り組み


本県の肉用牛繁殖経営の平均飼養規模は県平均で8.1頭、高橋牧場のある玖珠町の平均飼養規模は、7.0頭と非常に小規模な複合経営が、多数見受けられる。

このような中、今回推薦する高橋英雄氏(60才)は、昭和36年に高校を卒業と同時に就農した。『牛を50頭飼う』と言う夢がかない、現在68頭の飼養規模を誇る県内でも有数の大規模繁殖農家であり、玖珠郡内でも中核農家として活躍している。

特徴の第一は、これまで無理な投資は避け地道に増頭することで規模の拡大を図ってきた。しかし、平成3年の台風により牛舎が倒壊し、壊滅的な打撃を受けたが、県や町の補助事業を活用し再起を図った。このような状況がありながら現在に至るまで、安定した経営を行い、高い所得を確保している。ちなみに14年の所得は、8,762千円・所得率52.9%で、14年期末の借入金は、成雌牛1頭当たり52千円となっている。

これは、昭和63年より開始した青色申告による計数管理があげられる。また、加えて、経営主の経営理念として無理な投資は行わないことである。増頭も、一般的には、血統のよい高い牛を導入しがちであるが、経営に見合った安めの子牛や子牛価格が下落した時をチャンスと見ての導入や、自家育成牛で着実に規模の拡大を図るなど、卓越した経営理念を持っている。

第二として、この高い収益をあげている要因の一つであるが、広域農業開発事業により造成された放牧地を活用し、昭和58年より放牧を行い、生産コストの低減を図り所得の向上につなげている。放牧は、年間の1/3の頭数に当たる約20頭を4月から11月にかけて、玖珠町と隣県の牧野組合に預託放牧を行い長男が週に1回程度管理を実施している。この放牧で出来た時間を活用し現在でも、130aの加工用大根や白菜等の作付けを行っている。

■家畜の飼養状況



品種区分 経産牛 未経産牛 育成牛 子牛
期首飼養頭数 60頭 7頭 1頭 46頭
期末飼養頭数 60頭 9頭 1頭 46頭
平均飼養頭数 60.5頭 7.9頭 3.2頭 43.4頭
年間出荷頭数  廃用 8頭     出荷 50頭

■経営の実績



  経営実績 畜産協会指標




労働力員数(畜産) 家族(人) 3  
雇用(人)    
肥育牛平均飼養頭数 肉用牛(頭)    
交雑牛(頭) 228.4  
乳用牛(頭)    
年間肥育牛販売価格 肉用牛(頭)    
交雑牛(頭) 110  
乳用牛(頭)    


肥育部門年間総所得 28,345  
肥育牛1頭当たり年間所得 257,690 161,270
所得率(%) 31.9 23.5
肥育牛1頭当たり 部門収入(円)
うち牛販売収入
   
808,210 645,977
売上原価(円)
うちもと畜費(円)
うち購入飼料費(円)
うち労働費(円)
うち原価償却費(円)
569,737 550,637
209,545 182,545
230,074 266,408
68,969 46,791
14,492 24,146


肥育開始時 日齢(日) 182 55
体重(kg) 190 91
肥育牛1頭当たり 出荷時月齢(カ月) 33.5 26.1
出荷時生体重(kg) 816 697
平均肥育日数(日) 842 799
販売肥育牛1頭1日当たり増体重(DG)(kg) 0.743 0.812
対常時頭数事故率(%) 2.7 2.0
販売牛1頭当たり販売価格(円) 808,210 645,977
販売牛生体1kg当たり販売価格(円) 990 878
枝肉1kg当たり販売価格(円) 1,516 1,343
肉質等級4以上格付率(%) 60.9  
もと牛1頭当たり導入価格(円) 197,000 141,721
もと牛生体1kg当たり導入価格(円) 1,037 1,732


■収入等の状況



区分 種類/品目名 作付面積飼養頭模 販売量 販売額収入額 収入構成比 概ねの所得率
  農業収入 220a   937千円    
           
           
           
うち畜産部門 肉用牛交雑種肥育 228.4頭 110頭 88.903   31.9
           
           
           
農外収入            
合計            

■当期生産費用



区分 総額 肥育牛1頭当たり
種付料    
もと畜費 23,050,000 209,545
購入飼料費 25,308,152 230,074
自給飼料費    
敷料費   消耗諸材料費に含む
人件費 雇用    
家族 7,586,600 68,969
7,586,600 68,969
診療・医薬品費 416,195 3,784
光熱水費 1,948,801 17,716
燃料費   消耗諸材料費に含む
原価消却費 家畜    
建物・構築物 283,588 2,578
機器具・車両 1,310,546 11,914
草地   0
1,594,134 14,492
修繕費 1,138,490 10,350
小農具費 370,832 3,371
消耗諸材料費 2,023,875 18,399
賃料料金その他 30,000 273
当期生産費用合計 63,467,079 576,973
期首飼養牛評価額 46,204,000 420,036
期中飼養牛評価額    
期末飼養牛評価額 47,000,000 427,273
副産物価格 0 0
差引生産原価 62,671,079  
肉牛出荷1頭当たり生産原価   569,737

■損益計算書



区分 総額 肥育牛1頭当たり



子牛販売収入    
育成牛販売収入    
肥育牛等販売収入 88,903,000 808,210
堆肥等販売収入    
その他 88,903,000 808,210
   




期首飼養牛評価額 46,204,000 420,036
当期生産費用合計 63,467,079 576,973
期中成牛振替額 0 0
期末飼養牛評価額 47,000,000 427,273
他部門利用堆肥評価額    
売上原価 62,671,079 569,737
売上総利益 26,231,981 238,473








販売経費 6,242,970 56,754
共済掛金 692,064 6,291
租税公課諸負担 410,376 3,731
事務費 692,455 6,295
雇用   0
家族 39,200 356
39,200 356
その他    
8,077,065 73,428
営業利益 18,154,916 165,045





受取利子 11,614 106
成牛処分益    
その他 2,647,800 24,071
2,659,414 24,176





支払利子 88,330 803
支払地代    
成牛処分損    
その他 5,920 54
94,250 857
経常利益 20,720,080 188,364
経常所得 28,345,880 257,690

■家畜糞尿処理等



経営に伴って発生するふん尿は、次の堆肥センター等に無償で持ち込み堆肥化され、耕種農家に利用されている。

1.高田堆肥生産組合(地区の肥育農家6名で構成)の堆肥舎に持ち込み(自家生産分の約70%)。組合では、組合員の出役(1名あたり年2回)して堆肥の切換を実施し、製品の大半は無償で地元農家に供給。本人からは11戸の水田作委託農家の水田と1部のイチゴ栽培農家(モミガラ堆肥のみ)に無償で供給し、また1部については2トン車と1台2,500円で希望者に運搬。

2.くにさき西部農協堆肥センター
自家生産分の約30%を依頼。
製品は農協が近隣農家には自走式マニアスプレッター(2トン)で耕作地に散布
管外など遠距離にはダンプカーで販売。

施設等の所有利用状況



土地所有と利用状況



区分 実面積 畜産利用地面積 備考
  うち借地





耕地 350 290    
40      
樹園地 0      
390 290    
耕地外 牧草地 0      
野草地 0      
         
0      
畜舎・運動場 50   40  
その他 山林 30      
原野 0      
30      
共同利用地 0      

土地に関わるグループ活動については、上表の「個別経営地」を「共同利用地」に置き換えて記載

家畜の飼養・出荷状況



品種区分 肉用牛交雑種肥育畜(去勢)
期首飼養頭数 232頭
期末飼養頭数 236頭
平均飼養頭数 228.4頭
年間出荷頭数 110頭

地域農業との協調と融和



良質な稲ワラとその収穫期の労働力を確保するために、6戸の水田受託耕作を昭和55年頃から開始した。(現在13戸から受託)これにより労働力的に安定した肥育経営を続けている。

 一方、委託する農家13戸のうち6戸は作業(整地、田植え及び刈り取り)を全面委託している。

 これまでは個人的に集落営農の1部を担って来たが、平成9年6月設立の荒尾地区農作業受託部会の先駆的役割を果たし、設立後は受託農家6戸(うち肥育農家3戸)の中で最も多い面積を受託し、その中核的役割を果たしている。

 今後はさらに集落営農の推進に大きな役割を果たすものと考えられる。

評価を裏付ける経営管理技術や特色のある取り組み


集落の環境的立地条件、労働力及び資本等を考慮した場合、常時300頭程度以上の飼養は無理であることから、交雑種による高品質、高価格を目標とした飼養管理技術に重点を置いている。集落が近いことから畜舎の牛庄が常に乾燥しているよう環境保全にも気配りしている。

1.畜舎の換気に配慮した越屋根型畜舎を県下で最初に設置した。
また、電柱の廃材を利用した低コスト牛舎で県下のモデルとなった。

2.牛の夏場のストレスを少なくするために電気哺虫器を各牛舎に2〜3ヶ所設置している。

3.夏場の食欲低下防止のため冷水を給水。

4.仕上げ牛90頭に毎日牛舎の通路からガゴ(針金の熊手状のものを3mの竿竹の先端に付けたもので1頭2〜3分間背筋をゆっくり掻くこと)を夕方夫婦2人で約1時間実施している。牛の側から競って近寄ってくる状況。

5.郡飼の全房に大型扇風機を設置し、牛床の乾燥を促進していることで、牛体の汚れがほとんどなく、牛舎の臭気がほとんどない。

6.肥育終了時日齢が1,024日(県指標値796日)とかなり長いが、出荷時体重は816kg(県指標697kg)で大きく仕上がっている。さらに、1頭あたりの販売価格も808千円(県指標値645千円)と高く販売しており、県下で他に類を見ない独特の経営である。

今後の目指す方向



平成10年12月期末の飼養頭数は236頭であったが、平成11年7月現在は290頭に増加。本年末には約300頭まで増加させる計画。

 畜舎の収容能力・飼養管理労働力及び稲ワラ収集能力、資本等の関係から300頭程度を上限として当分は現在の交雑種去勢での管理能力を一層向上させ、更なる高品質・高価格、及び、高所得を目標に努力を続けたい。

 なお、水田耕作用機械一式については個人所有から荒尾地区農作業受託部会の機械に置き替え、さらに経営の効率化をはかって行くとともに現在、労働力、品質、価格面から購入に頼っている稲ワラ以外の粗飼料確保については、地域における耕種農家や他の肉用牛経営農家の状況とも併せて、自給体制の検討を図ってまいりたい。